私は、いつも紙はいらないと言っている。
紙不要論者です。
紙は場所を取り、邪魔で煩わしい。デジタル全盛期の今、紙はPDFにしたりメモをクラウドに保存すればいい。生産性を高めるためにも「ペーパーレス」に大賛成です。
しかし、それはドキュメントの場合。
写真は例外。デジタル写真であっても写真を作品として紙に印刷するべきだと考えています。
この記事では、デジカメで撮影した写真をデジタルのまま保存・閲覧するのではなく、あえて紙に印刷して作品として残す「ポートフォリオ作成」を解説します。
一般の方にも自分の写真を紙に印刷することを強くオススメしますよ。
目次
ポートフォリオとは?
ポートフォリオ(Portfolio)とういう言葉には、いろいろな意味があります。
- 英語では、書類を運ぶ平らなケース。
- 自分の能力を周囲に伝えるための自己作品集のこと(作品を平カバンに詰めておくことから)。特に、美術系の文脈で使われることが多い。画家のポートフォリオ、写真家のポートフォリオ、Webデザイナーのポートフォリオ、会社のポートフォリオ、等々。
- ポートフォリオ (金融) – 一般的な投資家は、リスク管理のために自らの資産を複数の金融商品に分散させて投資する。その金融商品の組み合わせのことをポートフォリオという。
- パーソナルポートフォリオ – 教育分野における個人評価ツール。プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント – 経営学またはマーケティングにおけるマネジメント手法の一つ。
- その他、文脈によって、特定の資料や情報を指すために使用される。例えば、紙におけるポートフォリオ、医療におけるポートフォリオ、化学品におけるポートフォリオ、教育におけるポートフォリオ、等々。
(Wikipediaより)
この記事でのポートフォリオとは、上から2番目の意味です。
アーティストの場合は、「ポートフォリオ = 自己作品集」。
さらに突き詰めて写真のポートフォリオとは、「撮影者または写真家の世界観をまとめたもの」と言っていいでしょう。
なぜポートフォリオを作成する必要があるのか?
ポートフォリオ(自己作品集)を作成するのは、人に見せて評価をもらう。そして自分を売り込むためのものと思われがちですが、そういった対外的な理由とは別に対内的な理由もあります。
対内的な理由とは、自分の作品を見つめ直すこと。
過去に撮影した自分の写真を見ることで、自分の作品を客観的にとらえることができるのです。
フィルムと違ってデジタル写真は、撮影できる残り枚数を気にせずにガンガン撮ることができるので(メモリーカードの空き容量の問題はあるが、フィルムほど気にならない)、撮影後ハードディスクに溜め込んだままではありませんか?
それって、もったいないですよ。撮影したことに満足してしまい、自分の写真を振り返って見ない。
自分の写真を振り返って見ることは、自分で自分を見てみること。
そうすることで今の自分の状況が把握でき、足りないことや自分が撮影したいことなどの「次」が見えてきます。
作品を何枚ぐらい入れるの?
撮影した写真すべてを自分が振り返って見る分にはいいのですが、人に見てもらうことは不可能。作品として自信作だけまとめればいい。では、どれくらいの枚数の作品をポートフォリオに入れるといいのか?
5枚から10枚ぐらいではダメ。少なすぎます。これだけ少ないと撮影者の世界観が相手に伝わりません。また、先に述べた、”足りないことや自分が撮影したいことなどの「次」”がこれだけの枚数だと少なすぎて見えてこないからです。
100枚は多すぎます。自分が作品を振り返るにはいいですが、作品を見る他の人は集中力が切れてしまい、見るのは前半だけ。後半になると疲れてしまうので見ないか、もしくはじっくり見ずにページをめくるだけになってしまいます。
一般的に言われている最適な枚数は最低でも30枚ぐらいらしいのですが、私は40枚ぐらい、多くても50枚までと考えています。30枚ぐらいだと少し物足りない感じがするし、50枚以上だと見るのが疲れるからです。
使用しているポートフォリオ
▼「ベレッサ ポートフォリオ MB-A4LSH」。販売元は、コスモスインターナショナル。A4サイズ横型。
▼人工皮革を使用しているが、肌触りがよく重厚感を感じられる。値段は高い。これに作品を入れると不思議と安っぽく見えない。
▼横から見たところ。最大収納数30リフィル。リフィルは別売。写真が60枚収納できる。
▼リフィルを収納したら、プラスかマイナスドライバーで締め付けます。
▼別売のポートフォリオリフィル。MB-A4LSH用は2種類。こちらは、PP-A4LS(10枚入り)
▼PET-A4LS(5枚入り)。5枚入りのPET-A4LSは割高なので、10枚入りのPP-A4LSをオススメします。
▼リフィルは、透明度の高いフィルムの中に黒い台紙が1枚入っていて、紙を挟んで前後に作品を1枚ずつ入れるようになっています。作品の入れ替えは容易。
コスモスインターナショナルでは、ベレッサも含めて横型や縦型、いろいろなサイズやタイプのポートフォリオが販売されています。
ケチるな
見栄えの問題なのでしょうか?なぜなのかはよくわからないのですが、安いポートフォリオを購入して作品を入れると、自分の作品が安っぽく見えてしまう。だからケチらないほうがいいですよ。
自分の財布との相談になるでしょうが、値段が高くても質のいいポートフォリオに作品を入れましょう。
ポートフォリオ作成工程
ここからは、私が行っているポートフォリオ作成工程を紹介します。
自分に合った紙を見つける
まず紙です。印刷する写真紙用紙にもこだわりましょう。
ケチって安い紙を使ってはいけません、と言いたいところですが、やはり自分の財布と相談が必要ですよね。
徹底的にこだわればこだわるほど紙代が高くなってしまうが、ケチると自分の満足度が低くなってしまう。このあたりのバランスをどう考えるのかが必要になってきます。
一般の方なら、
- 自宅のインクジェットプリンターで印刷する
- 入手しやすい
- コストパフォーマンスがよい
- 見栄えがいい仕上がり
このあたりを考慮しながら、紙を選ぶでしょう。紙の質については、最終的に個人の好みの問題になります。
▼私がよく使うのは、「ピクトリコ PPS200-A4/20 (ピクトリコプロ/セミグロスペーパー/A4サイズ/20枚入り)」という半光沢紙。安くて家電量販店でも入手しやすく、プリンターメーカー純正紙よりも色鮮やかに奥深く、そして仕上がりがきれいなので気に入って使っています。
初心者の方に特に多いのが、印刷するならツルテカの光沢紙を使う傾向。否定するつもりはないですが、何でもかんでも光沢紙に印刷すればいい作品になるわけではないですよ。作品に応じて使い分けが必要。
光沢紙は色鮮やかに印刷できるが、作品によっては紙質が強調されて前面に出すぎることがあり、マット紙は落ち着いた印象に仕上がるが、光沢がないので何か物足りなさを感じることがあります。
この半光沢紙は、つやのある光沢紙と光沢がないマット紙の中間のような存在。紙の表面に細かな凹凸があるのが特徴。
ちなみに、私は撮影しないですけど、神社仏閣を印刷するなら和紙がオススメですね。
プリンターメーカー純正紙で印刷すると、必ずしも満足できる仕上がりになるとは限りません。残念な結果になることもあります。いろいろな種類の紙を購入して、自分が満足できる結果になるまで印刷を繰り返す「実験」が必要です。
何度も言いますが、写真印刷する紙は個人の好みの問題。自分に合った紙を見つけてください。
作品を扱うときは、必ず手袋を着用する
▼フォトコンテストなど作品を多く扱う場で、手袋を着用せずに素手で触る無神経な写真家たちが実は意外に多いのですが、作品を扱うときは必ず手袋をしましょう。指紋や手垢を付けないためです。
▼私が使っている手袋は、「堀内カラー(HCL)綿手袋 L」。こちらは男性用サイズで、女性用にSサイズもあります。綿100%の素材で指先が細く、作品を扱うときに重宝します。
印刷後にインクの余分な水分を取り除く
▼自宅のプリンターで作品を印刷します。
▼印刷後、作品をそのまま放置して乾燥させても構わないのですが、私は白い紙を上に置いてインクの余分な水分を取り除いています。
▼使う白い紙は、一般的な印刷用紙。
▼上に雑誌などの”重し”を置いて、しばらく放置します。
▼写真ではわかりづらいですが、白い紙に一部”ヨレ”ができました(赤枠)。これがインクの余分な水分。水分を取り除くことで乾燥だけでなく、色の安定を早めることができます。
品質管理にこだわるなら、プリントガードをスプレーする
この行程は、人によっては飛ばしてもいいと思います。紫外線などの影響によって印刷後の保存状態が悪くなってしまうこともあり得るので、長期間の品質管理にこだわるならプリントに保護材(いわゆるプリントガード)をスプレーしましょう。
最新のプリンターインクは、耐光性(紫外線など)や耐オゾン性なども増しているので、プリントガードは必要ないかもしれません。
プリントガードは値段は高く、1本でスプレーできるプリント用紙枚数が多くないので、購入の際にはご自身のお財布と相談が必要です。
以前は家電量販店やカメラ専門店でもハーネミューレというドイツの製紙会社が製造していた「Hahnemuhle インクジェット用表面保護スプレー 400ml」の取り扱いがあったのですが、最近は見かけなくなり入手が困難になってしまいました。地方在住者が入手できるとすれば、Amazonぐらいでしょうか。
▼現在、比較的入手しやすく手ごろな価格なのは、「ホルベイン 画用液 ウォータープルーフスプレーO615 O615 220ml」。
▼耐水性スプレーであり、耐光性(紫外線など)・耐オゾン性には威力を発揮しません。
▼室内でスプレーをするため作品の下に新聞紙を敷き、窓を開けるなどして換気をします。
▼全体的に薄く均一に吹き付けます。
ポートフォリオに作品を入れる
▼出来上がった作品を一枚ずつリフィルに入れていきます。
▼すべての作品を入れたら、最後にドライバーで締め付けて完成。
▼完成したポートフォリオ。最初の1枚目は、やはり自分が一番”見せたい(魅せたい)”自信作になるでしょう。
▼見開き。作品の入れ替え・並べ替えは自由にできます。
▼どのような順番で作品を並べるか。見せ方(魅せ方)に影響する大事なことですが、一般の方はあまり深く考える必要はないと思います。全体的な構成よりも見開きページの左右にどの作品を並べるかを考えた方がいいかもしれません。
写真を画面で人に見せるのが良くない理由
写真を人に見せるときに紙に印刷するのと画面で見せる方法のどちらがいいのかについては賛否両論ありますが、私は紙に印刷したほうが勝ってると考えます。
デジタル写真だからパソコンやタブレットなどの画面で人に見せることもあるでしょう。
たしかに、デジタル写真をデジタル機器にコピーしたほうが、取り扱いは便利。ハードディスクやタブレットであれば、作品を大量に入れて持ち歩くのも楽ですね。
しかし、私はやりません。オススメもしません。
理由は2つあります。
画面の色は、すべて同じではない
パソコン、ノートパソコン、タブレット、スマホなどデジタル機器の画面はいろいろありますが、同じ写真を表示しても機種によって発色が違います。
デジタルの世界では、色に基準がありません。
基準がないので、異なる機器間で同じ色を扱うための環境整備をする”カラーマネージメント”と言う作業が必要になります。
このカラーマネージメントは、専門的な知識が必要になり説明が長くなってしまうので、ここではその詳細を割愛しますが、「画面で見る色は、機種によって異なる」ということは覚えておいてください。
それと、最近のパソコンやスマホ、タブレットには環境光センサーがあり、周囲の明るさに応じて画面の明るさも変化します。そうなると、表示された写真の明るさも変わってしまう。場合によっては、オリジナルの写真とは違う色味の写真になることもあります。
透過光と反射光では、写真の見え方に違いがある
以前にネット上で話題になった「どうして紙にプリントアウトした方が圧倒的に間違いに気付きやすいのか」に通じることでもあります。
写真を画面で見せることをオススメしない2つ目の理由は、透過光。
透過光とは、デジタル機器の画面から発せられる光線。
これとは反対に紙に印刷して、周囲の光が紙に染み込んだインクに反射して私たちの目に映像として見ることができる。この光を反射光と言います。
写真をデジタル機器など発光型デバイスの透過光で見るのと、紙に印刷して反射光で見るのでは違いがあります。
それは、脳の認識の違い。
参考:「紙媒体の方がディスプレーより理解できる」ダイレクトメールに関する脳科学実験で確認
私は脳科学に関しては専門ではありません。上記のリンクは、ダイレクトメールに関する脳科学実験結果ですが、写真などの映像に関しても同じことが言えるのではないか。
個人的なことを言えば、写真は画面よりも紙をじっくり見る傾向にありますね。透過光による画面だとパターン認識になるのでしょうか。反射光の紙媒体のように鑑賞する気になりません。紙に印刷された写真をじっくり見るのは、脳が強く反応しているからでしょう。
▼同じ写真をタブレットに表示したものと印刷したもの両方を並べました。
写真を見る者の心を魅了するのは、画面ではなく紙だ
写真は、画面でなく紙です。
たしかに最近のスマホやパソコンの画面は色鮮やかで高精細なものが多いので、デジタル写真を表示するのに不自由はありません。満足度も高いでしょう。
SNSがこれだけ普及していれば、デジタル写真を手軽にアップロードして高精細な画面で多数の人に見てもらえます。これを否定するつもりはまったくありません。私もSNSに写真を上げています。
しかし、もし紙に写真を印刷するよりも画面表示が優れているならば、写真展では印刷した紙を額に入れたり、額も入れないパネル加工で展示せずに、モニターを並べてデジタル写真を表示するはず。
デジタルカメラ全盛期の今でも、あえて印刷した紙を額装やパネル加工で展示しているのは、写真を見る者の心を魅了するのは紙だから。
写真を人に「見せる」だけなら画面表示、写真で人を「魅せる」なら紙に印刷です。
写真を作品として紙に印刷することは、ドキュメントのペーパレス化とはまったく正反対の考え方ですが、私のこの考え・立場はこれからも変わらない。